6つのStory【邂逅 〜 矢野麻紀子・宮城景花 二人展】

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「邂逅(かいこう)〜矢野麻紀子・宮城景花 二人展」より、6つのStoryをお楽しみください。

おかえり 矢野麻紀子 二人展 邂逅

「おかえり」by Makiko Yano
「おかえり」「ただいま」親子でよく言いそうなこのセリフ、我が家ではそんなに言っていなかった。
子どもたちが小さかった頃、商売をしていた我が家は、普通とはちょっと違った。
上の子たちは、学校が終わるとお店に帰り、公園で遊んだ帰りも一旦お店に帰る。保育園から下の子たちのお迎えをしたら、下の子と私もお店に帰る。夕方6時頃、お店に全員集合。これが我が家のスタイル。
そしてそこから、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしながら、みんなでお店近くの自宅に大移動。
自宅に着いたら、玄関からみんなで「ただいまー!」と。空っぽだった家の中が一気に元気に包まれて、家が「おかえり!」と言ってくれているような、そんな気がしていた。

一番ホッとできる場所、それは「おかえり」が聞こえる場所なのかもしれない。

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「泥んこ」 by Keika Miyagi

あれは確か、小学校3年生くらいの時だったと思う。
UFOみたいな遊具のある近くの公園に大勢で集まり、毎日のように砂場で大きな迷路のようなものを作っていた。高学年のお兄さんやお姉さんたちも交えて、かなり完成度の高い大きな仕掛けを作る。砂を固く地ならしするためには水が必要で、バケツに汲んだ水を適宜砂に撒いて湿らせながら、ビー玉がころがる道を整備していくのだ。

その時に、必ず必要なのが「王冠」。
大概は大人が飲んでいるビール瓶の王冠で、大人が栓を抜いたらすかさず袋の中に入れる。
「ビーコロ」と呼んでいたその遊びのために、袋にじゃらじゃらと貯めている王冠は子どもたちの宝物だった。

砂場のビーコロのルートには、王冠がいくつも埋められている。初めはスタート地点に表面を出して埋めた王冠。そこにビー玉を上からコンと当ててレースはスタートする。
勢いがうまくつかないと、途中の裏返した王冠の中にビー玉が入ってしまう。そうするとその玉はビーコロの台を作ったチームに取られてしまう。

今考えてみればなかなかヤクザな遊びだったと思うんだけれども、とにかく小学校の時の放課後で、1番心が躍った思い出は、そのビー玉転がしの遊びだった。

水でどろどろになった砂場。ビーコロの終わりに、みんなでぐちゃぐちゃに壊す時の開放感。
家へ帰る途中の車道には、石蹴りの枠が白墨でいくつも描かれていたし、ゴム飛びの数を数える声は暗くなるまで響いていた。
商店街には小さい子も大きい子もひしめき合っていて、いつでも子供は泥だらけだった。

それから30年以上が経ち、私たちの子どもたちは保育園で泥だんごというものを作っていた。
土に水を混ぜて固めていき、両手一杯の球体を作って磨き上げる。
園庭で走り回ったり転んだり、少年野球のグラウンドでは子どもだけでなく大人まで泥だらけだ。

同じ子育て期を過ごした仲間たちに、ふと浮かぶ言葉を出してもらった。

「泥んこ」というキーワードが出た時にまず浮かんだのは、さまざまな笑顔。
ある子は塗りたくり、ある子は泥水の飛沫にまみれ、ある子はただただ笑っている。

自分の子ども時代の思い出。
それを次の時代に追体験した思い出。

泥だらけの服に「ウタマロ石鹸」を塗ることも無くなった今、なぜか今度は手を真っ黒にして「泥んこ」の絵を描いている。
あのワクワク感は、変わらぬままで。

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しじま 矢野麻紀子 二人展 邂逅 「しじま」by Makiko Yano
今回の展示にあたり、子どもたちが小学校時代にお世話になった吉田先生からいただいた言葉だ。
恥ずかしながら、辞書を引かなければ意味がわからなかった。
「しじま」を辞書で引くと、以下のような意味とのこと。
・静まり返っていること
ただ、静寂とは区別されており、口を閉ざして静まり返っているという状況が含まれているらしい。
意味を調べて、合点がいった。
「ねぇねぇ、ちょっとだけシーしてみて。ほら、なんか虫の声が聞こえない?」
子どもたちに静かにして欲しい時によく使った私の作戦だ。
この作戦は、小さい子どもにも使える。
作戦といえば、よく使ったのがもうひとつ。
外食をしている時などは、子どもには大人しくしていて欲しいと思うもの。
その時は「テーブルの上に食事の神様がいるね」と、見えないものをあたかも見えているように言う。
この作戦も効果絶大。お母さんの言うことは聞かなくても、神様の言うことは絶対に聞いてくれた。
子どもと手を繋いで歩いている時は、私の中に一瞬のしじまを作ることができた。その瞬間は、たいてい空を見上げる。太陽や月や星や青空から元気をたくさんもらえたな。
「しじま」自分自身と会話をすることができる静けさなのかもしれない。
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宮城景花 ガラスペン画 二人展 におい
「におい」by Keika Miyagi
「におい」と聞いて、一番最初に思い浮かんだのは太陽のひなたの匂いだった。
じりじりとした太陽の中で走り回る子どもの匂い。
こちらの姿を見つけると、全速力で走ってきて腕の中に収まる。
何がそんなに楽しいのだろう?と思うくらいに笑っている。
それに釣られて、こちらも笑う。
週末に太陽が出るのはありがたかった。
たっぷりと干した後の布団に、ジャンプして飛び込む。
落ち込むことがある日でも、メラメラと照らしてくれる陽の光がどんなに大変な時期を救ってくれたか。
今日も同じ太陽が、今日の日を照らしてくれる。
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陽だまり 二人展 矢野麻紀子 邂逅
「ひだまり」by Makiko Yano

こんな都会で暮らしていながら、本当によく外で遊んでいたもんだ。

上の娘たちは、サッカー、息子は野球。

末っ子と私は、いつもそれらの付き添いだ。

どちらのスポーツも、練習場所はだいたい砂埃舞うグランドで、暑い夏も寒い冬も、外で過ごす時間が長かった。

「陽だまり」という言葉からは、やはりこの時の光景が連想される。

グランドでは、娘や息子が砂まみれになり、そのグランドの傍で、陽だまりを見つけては、末っ子と遊ぶ。「陽だまり」は常にグランドの砂っぽさとセットなのだ。

サッカーや野球を一緒にしていたお友達のご家族には、本当に助けてもらった。

練習場所まで連れて行ってくれたり、練習の後一緒に遊んでくれたり。ある時は、練習後お風呂に入れてくれたり。

自分一人で4人の子育ては到底できなかっただろう。
子どもたちは、関わる周りの人たちに支えられて大きくなったのだ。

両親以外の大人と関わることで、心のバランスも取れていたのかなと、今になって思う。

子どもたちを一緒に育ててくれたみんなには、感謝しかない。

この場を借りて、ありがとう!

関わってきたみんなこそが、私にとっては「陽だまり」そのものだ。
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なみだ 宮城景花 ガラスペン画 二人展
「なみだ」by Keika Miyagi

うちのリビングには昔、大きな鏡がついていた。

子どもが増えたので自分達の手で工事をした時のこと。リフォームとも言えない内装をざくざくと変えた、とりあえずのスペースを何とか確保するくらいの突貫工事だったが、その部屋になぜか父が一つの壁面いっぱいの大きさの鏡を貼ってくれた。

少しでも部屋が広く見えるように…という心遣いだったのか、子どもたちが遊ぶのに大きな鏡があったらいいと思った所以なのか…真相はわからない。

今回の展示で「なみだ」というお題が出た時、そんな鏡の前で、子どもが大泣きしていたある日のことをふと思い出した。

2人目の子は男子で愛想がよく、小さな頃から愛されキャラで自分自身のことも大好きな子どもだった。その息子、お姉ちゃんと喧嘩してなのか、理由は様々だがよく大きな大きな声を上げて泣いていた。目が大きいのでボロボロと涙が溢れていた。

ある日、大きな鏡の前で泣いている途中でちらっと鏡を覗き、どうやら自分の泣き顔をチェックしている。そしてまた大きな声で泣き始める。もう涙は出ていない。またチェックしてまた泣く。その様子を陰から観察している私に気づくと、今度は大きな声でゲラゲラと笑い始めた。

もう一つは、娘の毎晩毎晩の涙。「龍に乗りたい」と言って泣く。夜中の3時に「肩車して欲しい」と泣く。泣き声が大きくて近所の人に「もしや虐待では」と通報されたこともあるくらい。

でもとことん向き合っているうちに急にそんな日々が終わり、何事もなかったのように成長した。まるで人生の毒出しは、あの涙と共に終わったかのように。

悔し涙、痛い涙、悲しい涙…。気に入らない、と主張する涙。

良くもまあ、子どもはたくさん泣き、わたしはその涙を抱きしめ、拭ってきたことか。

そして、思い出せば親の私も良く泣いた。
それは卒園の時や別れや喜び、感謝など…何かの琴線に心が触れた時に。

そして、圧倒的に子どもに紐づいた涙が多かったように思う。

そしてひとしきり泣いた後は、その理由が何だったのかさえ今では思い出せない。

それほどに、涙は全てを洗い流してくれる。
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ご覧くださって、ありがとうございました。
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