グラスペンとの出会い

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それは本当にふとしたきっかけだった。あれからたった2日しか経っていない。「絵を描く」ということが何より苦手で出来るとも思わなかった自分が、今は紙の質感のことだったり、手作りの額のアイディア、また気づくと「次は何を描こうかな」ととてもウキウキしながら考えている。出張に向かう荷物にも画材を仕舞い込んで出てきた。本当に人生とは一寸先がわからないものだ。

その日はオンライン講座とコミュニティをサポートしている「黒板マーケティング研究所」の、年に数回のリアルイベントである鎌倉ツアーの日だった。スタートにラボのメンバーでもある奥鎌倉おりぜさんで昼食を取ろうと向かったところ、30分ほど早く到着してしまった。奥の方に行ったことがないゲストと一緒に鎌倉宮にでも行ってみましょうか、と何となく歩き出したところにその店はあった。道の角でカゴや帽子が並ぶフリマを準備している。ちょっと覗くとアフリカンプリントの鮮やかな手作り風のワンピースがかけてある。

いつもだったら、私の興味はそちらの方だ。その隣にガラス製品を置いているらしい店があったのでほんの「ついで」という感じで覗いてみた。

指輪やネックレス、生きて動きそうな虫のオブジェと一緒に、グラスペンのコーナーがあった。大小さまざまな色形があり、試し書き様にインクの壺と水の入った便が置いてある。

いつもだったら絶対に試さない。なぜなら何故か必ずインクで指を汚してしまうから。万年筆は好きなのに、初めて手に取るペンを上手く使えず必ず指にべったりとインクをつけてしまう。ましてやインク壺につけて描くなんて無理だ。私は店主の方がゆっくりと出てきてグラスペンのデモンストレーションをしているのをただ眺めていた。

「簡単なんですよ、そしてこの様に水につけるとすぐにインクが取れて次の色を使うことができる。違う色で描きたい場合も一本で大丈夫です。」

水の入った瓶にペンを浸すと、透明なペン先に見えていた青いインクがみるみると水に放たれて行った。ガラスのペン先はまた透明な状態に戻り、次に赤いインクを吸い込んだ。へー・・・青の残りと混ざって、紫色になったりしないのかな?・・・そんな疑問をよそに、店主の方が改めて試し描きをすると、ニュアンスのある赤いの線が白い紙の上に引かれて行った。

「ガラスの重さを利用して描いて線を引いてもいいし、このように降って落ちるしずくで絵を作ってもいい。自由です。全部自由。」店主の方のデモンストレーションに導かれる様に、同行していた二人が試し描きをする。

「うわー・・・これはいいですね。めちゃめちゃいい。」その声に押されるように私もグラスペンを試させてもらった。

そのペンは店の中にあるものの中でも大きいもので、見た目通りずっしりと手に乗ってきた。紙の上に線を引きながら、その太い線の濃淡に釘付けになった。また、しゅーっと紙の上を滑っていく感覚。きっと凹凸のある紙であればガラスが紙の上で滑べっていく音がするんだろう。私はその感触のとりこになった。そして「これかもしれない」と思った。死ぬまでには何らかの絵を描ける様になりたいとずっと思っていた。そのために私が使う道具はこれかもしれない。

「細いペン先が折れてしまうのでは?と懸念する人が多いのだけれども、今までほとんどありません。もし万が一壊れてしまったら無料で永年修理をします。」

「わたし、これ買います」と即決した。本当は自分のための1本を選ぶために1時間以上も試し描きをしてみなペンを選ぶらしい。わたしは欲しい太さのペンに手をかざして、念の為選んだものを手にとってみて選んだ。その日は、それが一番確実な気がした。

家に帰って、同居中のデザイナーMちゃんにこのペンを見せた。素直なMちゃんの顔は「わあー・・・すごく綺麗ー」と明るくなった。そして試し描きをしながら「私も引っ越す前にこれを買いに行きたいです」と言った。春からうちの和室に住んでいるMちゃんは、夏の終わりには家を出るのだ。

買い物のついでに、駅すぐの島森書店でポストカード大の紙を適当に選んで買った。下手でもなんでも、発表するに値するしない関わらず、これはどこかに記録しておきたいなと思ったのでその夜にインスタグラムFacebookにページを開いた。そう、手から生み出されるものに何かと比較する脳内の制限をかけるのはいつも自分だ。恐れや痛みが伴いつつも、そんな自意識はもうどんどん手放してしまいたい。

かくして私はグラスペンで絵と言葉を描き始めた。インクの青と紙の白の対比から「BLUE & WHITE」というキーワードが浮かんできて、藍の布でも何か作れないかなと思った。昨日は古い友達とタイプライターの話をしながら、そうだ、わたしはタイプライターを打つ感触とエンボスされた活字も好きだった、それをペン画の中に取り入れようかな・・・と思った。また、街の画材屋のウインドウに置かれた、ステンドグラスの廃材で作られた額を見てインスパイアされたり、すでにクリエイティビティの連鎖が止まらない。

過去と今に、点として存在していた興味の対象が繋がり始める時がある。それはスピーディーにちゃちゃちゃっと叶っていく。重要なのはどんな時でも「私はこうだから」と決め付けないことだ。自分を枠に押し込めない。そして物事が生まれる初期の段階から何かと比べないこと。最初から答えを求めないこと・・・。たぶん誰の中にもクリエイティビティがある。それは、思考をゆるく解放して締め付けないでいる時に、ふと現れて、タイミング逃さず手を動かしていく中で濃く形作られていくんだなあと実感した。