【料理】特別なおから

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せっかく富山県にいるのだから…と先日、電鉄富山駅から立山に入り、黒部アルペンルートを辿る道を歩きに行った。

氷見の海岸越しに見えていた3000m級の山々を登っているんだなと言う感慨や、もうすぐ閉鎖して歩けなくなってしまう雪の大壁の狭間を通れたり、この世のものとは思えない景色が広がる室堂など、1日で十分に盛りだくさんな体験ができた。

その日のうちに氷見に帰るには遠かったので、信濃大町という駅近くに泊まって少しゆっくりした。ここに来るのは初めてだったが、街を歩いているとあちこちの軒先に古本を入れた箱が置いてある。13年ほど前から「町なか自由図書館」という企画をやっているそうで、街を歩く人が気になる本を好きに持ち帰ることができ、読み終わったらまた次の人の手に渡っていくのだ。とても素敵だなぁと思った。

本を読まない私ではあるが、さすがに一人の宿泊で手持ちぶたさになるかな?と思い、気になる本を1冊拝借した。

数少ない好きなジャンル「おばあちゃんの知恵袋」のような本。ケンケンとして一番露出していた頃の見城美枝子が帯を書いている。筆者は金沢の方で、ご存命であれば100歳近いだろうか。生活の中のひとシーンとともに、数々の生活の知恵が綴られていた。

パッと開いたところを読むと、おからについての項だった。「亡くなった父親は私の炊いたおからしか食べなかった」ということで、その炊き方のコツが書いてある。

その中で「特別な日のおからは…」という一節に差し掛かり、「おからにもハレとケがあるのか…」と思って読み進んだ。特別な日のおからは、鯵などを焼いてほぐして入れるのだそう。想像しただけでも香ばしい風味が感じられる…。それと同時に、今まで食べたおからの中には魚との取り合わせはなかったので少し驚いた。

今日は氷見の魚屋さんで赤鯛のアラを安価で手に入れた。地元で朝採れたものなので何をしても美味しい。出汁茶漬けの汁を作るだけでは到底余るので、カマを4匹分焼いてそのほぐし身をとってさっそく「特別なおから」を作ってみた。

おからは豆腐屋さんで作っている生のものを使う。入れる野菜は余っているもの何でも良い。長ネギか玉ねぎをみじん切りにしたものは必須、ごぼうやにんじんの切れっ端、ちくわやこんにゃく油揚げ、余ったひじき煮などがあれば味がよくなる。全部を細かく刻んだら少し多めの油でよく炒める。私はごま油を使うけどコクが出過ぎるとしつこく感じる人なら普通になたね油や白いごま油で。

具をよく炒めたら別のお皿に移しておき、さらに油を追加して火にかけ、生のおからとすりおろした生姜を少し入れて入れてよく炒める。この時の火加減は重要で、中火〜弱火と焦げないように行ったり来たりしながら、ぱらりとなるまで炒めて行く。

よく火が入ったところで先程の具材と合わせ、特別のおからの場合はここに魚のほぐし身を盛大に入れる。全体の味が馴染むように丁寧に炒める。

味付けは出汁の中に酒、みりん、醤油、砂糖を加えたもの。ここでの味がそのままおからの味付けになるので、甘さや塩加減はお好みで。

おからがよく水分を吸うので出汁は多めに用意して、しっとりするまで火を入れながら合わせ調味料を加えていく。食べていて「喉が詰まらないおから」にする為にも、この水分調節は肝である。

件の本はその後「グリコのおまけを『咳の病気にかかってもしかしたら死ぬかもしれない』という妹の枕元に箱ごと持って行った。その時にふと同級生のお家では梅の実を一つづつすりおろしてゆっくりと煮詰めた梅エキスで様々な病気を治していると言う話を思い出し、それを実行したところ妹が健康を取り戻したので、グリコのおまけ箱を返したもらった」という話を読んだところで、いつものように気が済んでしまった。

次の日、元あった箱の中に本を戻した。あの項を読んだ誰かの台所で、また特別のおからが作られることがあるだろうか。梅の実をすりおろして作る梅エキスよりは、手軽に試せるんじゃないかなぁ。