【料理】イカの塩辛

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母の実家は魚屋だったので、子どもの頃からその鮮魚店が遊び場のようなものだった。

半年しか歳が違わない従姉妹と、大人の目を盗んでこっそりしらすの山からミニタコやミニ海老を見つけてつまみぐいしたり、夏は魚に敷く前の氷を口に放り込んだりしてワイワイしていた。

魚屋なのに鶏肉を扱う一角もあって、そこを通るのは怖かった。当時は職人さんが一匹づつ手で捌いていたのだ。大量の頭だけが入った大きなタライが足元にあった。それをなるべく見ない様に通り過ぎるのだけれど、若い職人さんがおもしろがって私たちがちょろちょろ通ると頭を一つ持ち「うわわわわー」とこちらに投げるふりをする。タケちゃんは優しいお兄さんだったけれど、その時だけはほんとに嫌で恨んでいた。

当時の私の好物といえば、酒盗とイカの塩辛。おじいちゃんの膝の上に乗っかって晩酌のつまみを一緒に食べると「この子は酒飲みになるぞ〜」と嬉しそうに言った。父方の血を引いたのか、お酒は少ししか飲めない大人になったけれども、今でも酒のつまみになるようなものは大好き。特にイカの良いのが売っていると必ず作るのが塩辛である。

イカを捌くのが面倒だという人がいるかもしれない。だいたい、どうやったらいいのか分からないという人もいるはず。私は完全な我流ではあるものの、イカを綺麗に捌いて行くことに幸福を感じる。中学時代の理科の実験を思い出す。はたまた人体の解剖に憧れていたので、医学系に進んだ友人らに食いつくように聞いていた解剖実習の話を思い出したりもしている。

話を戻そう。イカの良いのが手に入ったらわたを出来るだけたくさん使いたいから、最低2ハイは用意する。全体を軽く洗ったら中のわたを抜く作業。破れないように気をつけながら、中に手を入れて指でわたを離していく。上手く抜けたら、黒い小さな墨袋をこれも破らないように剥がしていく。胴体から骨も抜いて、中を軽く洗って置く。

目の上くらいでワタを切り離し、耐熱皿に並べて塩を降る。そのままトースターで表面が少し乾いて、水気がふつふつとなるまで軽く焼く。こうすると生臭さが消えて、香ばしく濃厚な味になる。

三角のエンペラを剥がして下に引くと皮がそのまま一筋はがれるので、細く水を流しながら指を皮の隙間に滑り込ませて全体をむいていく。全て綺麗にむけたら輪のまま細く切り、ザルにとって塩を振っておく。

残りだが、ゲソは手で吸盤をある程度こそげ取ったら細かく切っておく。目と足の間には丸いイカの口。トンビやメガラスとも言うが、珍味として食される部分なので、さばく人の特権で生のまま食べて良し。中にくちばし状の爪があるから先に取っておかないと痛い思いをする。ゲソと細切りにしたエンペラは、後日チヂミの具として活躍してもらうのでラップに包んで冷凍しておく。

軽く焼いたワタの粗熱が取れたら、塩気のしみたイカに指で混ぜ込んで出来上がり。焼いたワタの根元が残るが、もしかしたらこれが一番美味しいところかもしれない。これも作った人の特権でそのまま食べて良し。

出来上がった塩辛は、ゆずの皮のすりおろしを入れたり、少し醤油を垂らしたりアレンジは自由。自作のこれを食べたら巷に売っているイカの塩辛は全くの別物に感じると思う。

引っ越す前、地元の魚屋さんで「塩辛つくるんだ」というと、倍の量のワタを入れてくれる店があった。そんな昔ながらの素晴らしいコミュニケーションが可能な店は少なくなってしまったが、ワタの旨さがイカのほぼ全てじゃないか?と思う私に、もしワタを上乗せして入れてくれるお店があったら是非教えて欲しい。