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向田邦子没後40年特別イベント「いま、風が吹いている」を観て

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向田邦子さんの没後40年となった節目、青山のスパイラルで展覧会が開かれている。

向田さんは、母が大好きな作家だった。小さい頃流行っていたテレビドラマの脚本家として活躍していたのも覚えている。

家族旅行などした思い出がほとんど無い中で、どういう経緯だか忘れてしまったが甲子園球場に家族で高校野球を観にいったことがある。私はその頃いつも緊張していて乗り物酔いがひどく、どこに移動するのも辛かった。やっと電車から降りてふらふらと歩いていた時、大阪のビルの電光掲示板に向田邦子さんが飛行機事故で亡くなったというニュースが流れた。

向田邦子さんはわたしたちが生きた昭和の時代、そして母親の影そのものだった。

文字にするとすっきりと男前な印象なのに、繊細で深い女らしさが覗く。今回の展示では、当時の向田さんよりも年のいった自分があらためてその存在と向かい合う形となった。

パンフレットに乗っている横顔のイラストは、私が好きな若い頃の向田さんだろう。この帽子のシルエット、丸い襟に縁取りがしてあるジャケット。この頃の「服」の逸話が、今でも特に印象深い。

編集者として奔走しながら、衣食住に独特のこだわりがあったという向田さんは、若い頃まだ自由に服が買えない時代に、どうしても次の日に着たいと思うジャケットとスカートを一晩で縫い上げてしまったという。美味しいものが大好きで、ちゃちゃっとツボを押さえながら手早く作る料理の腕。頂き物のお土産が美味しいと、その包み紙やパンフレット、メモをしまっておく「う(美味いものの『う』)の引き出し」の存在。外国旅行が今ほど簡単ではない時代にどんどんと身軽に旅行をし、まだ見ぬ土地を大いに楽しむ姿。そんな向田さんはずっと憧れの存在だった。

今回の展示は、事故の前に出たテレビ番組での様子や旅の写真、とても気になっていた向田さんのワードローブや器の数々など。奥の方にコーナーが設けられていた、有名なマミオ始め猫の存在も忘れてはならない。(猫との出会いを綴ったチェンマイのホテルからの手紙も展示されており、パネルのモノクロ写真からも向田さんが紛れもない#極ねだったことが伺える)

登場人物の写真とともに遺された多くの原稿の文字は生々しく、気風が良い自由な人柄が今まさにそこに感じられるようだった。