Macintoshと夫、そしてわたし
約20年ぶりに、自分のマシンをMacにした。
他の家族は全員Macユーザーだったのにも関わらず、会社で主に使っていたのがWindows PCだったため、その使い勝手に慣れていたので、自分だけはSonyのVaioや一番新しいところではSurfaceを使っていた。
Surfaceは特に気に入っていた。コンパクトだし、背面を折り曲げれば好きな角度に画面を立てられるし、なによりもケースを兼ねているキーボードが「ぶりっ」と取れてしまうのが良かった。最初にこの仕組みを見た時はびっくり。仕事にも耐えうる高性能なPCがまるで雑貨のように見えたのだ。
スイッチの役割もしてくれる別売りのペンも便利だし、そもそもが大きなタブレット端末なのでキーボードを叩くのが埒あかないというような場合には(せっかちな性格だ)画面を直接触れば良い。その癖はだいぶ染み付いてしまったのか、今でもMacBookの画面を「えいっ、えいっ」とタップして、子どもたちに「Surfaceじゃないからダメだよ笑」とたしなめられる。
昨年末、「Apple M1チップ」を搭載したMacが発売されるというのが革新的な話題として界隈を賑わせていた。夫がりんごマークの大きい画面を見ながら、どうにも気になるという様子でずっとそれを眺めていた。
夫は、はっきり言ってApple社のファンである。私たちは同じ会社に新卒で入社した同期なのだが、業務は思いっきり営業中心の仕事ばかりだったのでMacを使っている人は皆無であった。
当時、いわゆるドブ板営業で関東全域を奔走していた自分たちにとって、クリエイティブな仕事をするMacには縁がなかった。だいたい最初に仕事で使ったPCは、手のひらよりも大きくて薄いフロッピーディスクをうぃんうぃん音を鳴らしながら発熱しているパソコンのスリットに入れるスタイルの物だった。画面は黒い字にプチプチのドットで文字が緑色に浮き上がる。
バンドで打ち込みに使っていたのも、ARARIというメーカーのモノクロ画面のもので、待ち時間が長く、その間は真ん中でミツバチのアイコンがくるくると回っているようなものだった。
WindowsとMacintosh。その両者の隔たりは、その時代大きかった。Macで作った書類がWindowsで開けないことはよくあることだった。
Macのマシンの中にパーティションを作り、Windows OSを入れるというような荒技もありだったように思う。
その後私は2社目の就業先ハワイ州観光局で初めて実物のMacを見た。カラーの綺麗な画面に美しいフォントが並んでいる。そして一番驚いたのはゴミ箱が右下に配置されていて、書類をドラッグすると蓋があき「ポン!」という何とも言えない音がすることだった。何という遊び心!!今では当たり前のことだが、当時は画期的で本当に感動した。
その後、新宿にNewtonショップというのがあると雑誌で見たのですぐさま行ってみると、Appleが開発した小さいマシン「Newton」というものがあった。iPhoneのアイディアの原型とも言われるもの。同じようにゴミ箱があり、書類をドラッグすると煙のような絵が出た。当時店長だった大杉さんがとても熱心にNewtonの魅力を語ってくれてそれにも感動した。大杉さんとは今でも交流させていただいていて、その後「アシストオン」という魅力的な製品を集めたお店をされている。大杉さんの語り口に触れるたび、私はあのNewtonショップでの爆発しそうなワクワク心を思い出す。
結婚して2年目のある日、夫がパソコンを購入した。Macintosh LCⅡ。初めてのMacに電源を入れたところかわいい顔のアイコンと「Welcome」という文字、そして動くアニメーションが出てきた。テレビでもないのに!!二人して、相当感動した。今考えるとほとんど原始人の心境に近い。
その後、キャンディーカラーの初代iMacを初めとして、要所要所でうちのMacは歴代の新しいマシンに変わっていった。その姿形には毎回驚きと発見があり、フリーズなどWindowsマシンよりもだいぶ多い不具合も「しょーがないなー」と受け入れてしまう愛らしさがあった。
一番印象的だったのは、ま四角の「Cube」というマシンだった。可愛らしい外観が気に入ってしばらく通信に使っていたところ、ある日ケーブルからバチバチっと火花が散ってそれっきり動かなくなった。
パソコンが火を吹く。このありえない体験すら、Macだからなーと許してしまえるような風潮があった。このCubeはリコールの対象になり、うちの残骸もその後回収されていった。
昨年の12月、「M1マック、買ったら?」と夫が呟いた。私にはかわいい「ぶりっと取れる」Surfaceがいるけど、まあいいか、と何となく注文した。決して安いものではないけど、つい最近までMacBookは30万円台くらいするものだと思っていたのが、なんと3分の1くらいの値段になっているではないか。色々とびっくりしながらも、私がやることはだいたい決まっているので、スペックを旦那に選んでもらって注文した。
クリスマスが終わった頃到着した私の20年ぶりのマシン、M1マック。人のものであるにも関わらず、夫も到着がちょっと嬉しそうだった。個人情報やデータがダダ漏れなのと引き換えに、今では各種設定も簡単極まりない。そして全ての動きが「ぴゅん!」と素早い。正直、こんなに素早くなくてもいいよ・・・と思うくらいだ。横で子ども達が「自分のマシンと変えてもいいよ」と覗き込む。いやいや、このM1ちゃんは私が自分で育てるのだ。そして新しいことをこれで色々やるんだもん!みんな、変えたかったら自分の給料で買ってちょうだい。
今では、サブスクで利用できるようになったIllustratorをインストールして、ずっと懸案であったイラレを一から学び始めた。Adobeが用意してくれている「ことはじめ」というビデオ講座で。1回1時間半のこの講座がとてもよくできている。やろうと思えば何でも学べる時代。面倒だなと思っていたWindowと違うインターフェイスにもすぐ慣れた。
私にも、とうとう本当に「クリエイティブ」なことをやる時が来たのかな。今年はこのマシンからまた新しい発信を色々としていきたい。